写真上:蛇体装飾付釣手土器(諏訪市博物館所蔵):映画「ものがたりをめぐる物語」より
神話学者ジョーゼフ・キャンベルの遺志を継ぐ人たちに
Hiroさん
変わりなくお過ごしでしょうか。アメリカでは、ワクチン接種が進み、国民の6割がすでに摂取済みと聞いております。それでも若い人たちを中心に感染者が広がってるようですね。また、接種が進んでいる州とそうでない州とでは開きがあるとも聞いております。そのような状況のもと、人々の意識に何か変化は起きていますか。前向きに進み始めているのでしょうか。
日本では、オリンピックが始まりました。この時期に開催することについては、人々の考え方に賛否両論あります。いずれにしろ、誰もが少なからず素直に喜べないわだかまりを抱えているのではないかと思います。概ね今年の開催に疑問を呈していたマスコミはオリンピックの開催が決定するや否や番組作りを豹変させました(あるいは織り込み済み・・・)。マスメディアとはそういうものだろうと誰もが分かっていることですが、実際にその通りの姿を目の当たりにすると、呆気にとられてしまい、これまで通りにテレビで観戦する気持ちが沸き上がってきません。私のへそまがりな性格が顔を出してきた影響もあるでしょう。国家間で競うスポーツのあり方にも違和感を覚えてしまいます。4年に1度のオリンピックの時だからこそ、例えば国境を無くし、国の枠組みを超えた混成チームを新たに加えるような試みはできないものでしょうか。選手に向けられた純粋な応援や歓喜がいつの間にか国に置き換えられてしまうことに釈然としないものを感じています。今回を機会にオリンピックのあり方そのものを見直していくことになれば良いのですが。
時々、私たちは踊りたいから踊っているか、それとも誰かのために、何らかのために踊らされているのか、わからなくなることがあります。もし仮に踊らされているのであれば、誰のために、どのような理由で踊らされているのか、見極めておきたいものです。さもなくば、私は私ではなくなるし、あなたもあなたでなくなってしまうからです。
コロナ禍の中で、神話学者のジョーゼフ・キャンベルの本に没頭できたことは、私にとって幸いなことでした。Hiroさんはキャンベルのことをご存知でしょうか。もしご存知なくてもジャレド・ダイヤモンドの本を紹介してくれたHiroさんですから、キャンベルの本もきっと興味深く読んでくれると思っています。
「神話の力」についてはすでに読んでいました。ユング派の臨床心理学者河合隼雄の著作を通じて、キャンベルのことは知っていたからです。新作映画「ものがたりをめぐる物語」(2021年完成予定)は、河合隼雄のいわゆる「ものがたり論」に触発されて製作したものであり、その一環としてキャンベルの「神話の力」を読んでいたのです。
映画の完成の目処がようやく着いたときに、日本でも新型コロナウイルスの感染拡大が始まり製作はストップしました。むしろ、私自身が製作をストップさせたという方が正確なのかもしれません。映画の編集やナレーション原稿の作成などの私の個人的な作業はすでに完了していましたが、スタジオでのナレーションの収録が残されており、そうした共同作業は少し様子を見た方が良いのではないかと判断したからです。東日本大震災後にスタートした制作はすでに足掛け10年に及び、「今更急いで仕上げる必要もないだろう」という気持ちもありました。本作はこれまでのように「映画館」で上映することも考えてはいません。今年の10月には、映画配信機能を追加してこのHomeTownNoteをリニューアルする予定にしておリますので、そこで公開する予定にております。Hiroさんにお願いした英語版の翻訳も字幕付きで配信しますのでご覧いただければ幸いです。
今となっては、なぜ再びジョーゼフ・キャンベルの本を読もうと思ったのか、そのきっかけを思い出すことはできません。当時のことで今も覚えていることは、「千の顔を持つ英雄」を読んだ後、不思議と「キャンベルの翻訳本を全て読んだ方が良いのでは」という淡い思いが込み上げてきた感覚だけです。具体的にキャンベルの著作のどのような内容が私の心に深く響いたのかについては改めますが、翻訳本を全て読んだ後に私が思ったことについては、ここでHiroさんにお伝えしたいと思っています。それは、
ジョセフキャンベルの遺志を継ぎ、彼の業績を一歩でも進めている研究者はいないのだろうか
という問いです。そしてそうした人物に出会ってみたいという思いです。キャンベル(1904~1987)が亡くなってもう、ずいぶん経っていますし、それによって彼の偉業が途絶えてしまったのであればあまりにも惜しいからです。Hiroさんはご存知ないでしょうか。