イギリスには、国が提唱する ブリティッシュ・バリュー(British Values) つまり、英国人が重んずるべき価値観というものがあります。それは、大人のみならず、小学校などでも子供たちに授業で教えます。私も保育園で働く上で、学ばなければいけない事の一つです。
ブリティッシュ・バリューには、メインの5つの項目があります。それは、
Democracy デモクラシー
一人一人の声が届く社会を作ること。学校では、みんなの意見が反映される環境が作られること。
The rule of law 法律による裁き
大人も子供たちも決まりを守ることの重要性を認識して、自分の行動に責任を持つこと。
Individual liberty 個々の表現の自由
個人の考えや表現が、安心できる環境の元で自由に持てること。一人の人間として責任をもって表現できること。
Mutual respect お互いに尊重し合うこと
個々の信条や、ルーツ、国籍や性別がお互いに尊重し合えること。
Tolerance of those of different faiths and beliefs 違いを認めあうこと
価値観や信条の違いを排除するのではなく、寛容して認め合うこと。(上の項目とひとまとめにされることもある)
こんな風に書くと、少し堅苦しく感じるかもしれませんが、保育園でも小学校でも小さい子供たちのこのような考え方を踏まえたうえでの教育をすることによって、差別などを少しでも無くそうとする国の試みなのです。だからと言って、いじめが全く無くなるとかそのようなことはないのですが、移民を多く受け入れるイギリスは色々な人種や宗教が入り混じっているために、このような価値観を共有することが大切になるのでしょう。
子どもが観るアニメーションでも、人種の違う登場人物が沢山出てきます。見た目の違いだけでなく、文化の違いを表現した子供番組も沢山あります。テレビ番組でも、雑誌でも、広告でも、いろんな人種の人を積極的に取り入れて多様性(Diversity:ダイバーシティ) を表現しています。
私自身イギリスに渡り、言葉や文化の違いに最初は慣れるのが大変でしたが、ロンドンに住んでいたころは非イギリス人が半数以上を占める地域で、外国人としての自分をあまり意識せずに生活できていたと思います。しかしながら、今住むロンドンから離れた町に住むことになってからは、少し違いました。80パーセント以上がイギリス人、しかもそこで生まれ育った人が大半の地域に溶け込むのは最初は難しく、これは目に見えない差別なのではないかと思ったことも多々あります。よく考えれば、日本でも田舎に都会人が突然引っ越して来たら、地域に溶け込むのが大変な状況と同じ事なのかもしれません。
私の働く保育園も、いろんな国の子供たちがいます。親が英語をあまり話せない人たちもいるし、子供が全く英語がわからないまま入ってくることもあります。でも、子どもというのは適応性が早く、すぐに言葉を覚えて(片言でも)環境に溶け込みます。「英語がうまく話せないから」「私は外国人だから」と何かと自分を消極的にしてしまうのは、大人の方でしょう。また、受け入れる側の大人もステレオタイプや先入観があると余計にややこしくなってしまうのです。
保育園にいる4歳以下の子供たちはお互いを judge(ジャッジ=決めつけること)せずに、一人の人間として接します。私が日本人だとか、英語の発音が他の先生と違うとか、そういうことは小さい子供にとって重要ではなく、一緒に遊んでくれる先生として「カズ!」と駆け寄ってきてくれたり、「先生は私のベストフレンド」なんて言ってくれる子もいて、嬉しいと同時に、子供に教えられることがとても多いです。
保育園で行われたコミュニティー・ウィークでは、保護者も自分の国の言葉で本の読み聞かせをしてくれたり、インド人のお母さんがチャパティづくりをみんなに教えてくれたり、それぞれの国のパンを持ち寄って食べ比べをしたり、それはそれは面白い取り組みとなりました。私も日本語で本を読みました。私が日本語を話すのを初めて見た子供たちは、目を丸くして聞いていましたが、そのうち絵本の絵に引き込まれて意味もなんとなく分かったのか、ああだね、こうだね、と色んな意見が飛び交いました。
文化だけでなく、両親がいない子どもや、お母さんが二人いる子供など、家庭環境も違う子供たちへの理解も大切です。いろんな選択があるんだよ、という事を教えることで、子供たちの他者への接し方、この子たちが大きくなった時の人間関係や考え方も変わってくるのではないでしょうか。
私は東京生まれですが、小さいころは外国人など近所に一人もいなかったので、このような教育は無かったように思います。ですので、私自身もこの “ダイバーシティ”の教育に関してはまだ初心者でもあります。自分は差別や偏見などないと思っていても、もしかしたら知らずに先入観を持って人を見ていることもあるかもしれない、という事を気を付けながら、この多様な社会で毎日を送っています。
もりした かずこ
ヨーロッパ イギリス、ハートフォードシャー
2024/08/18
由井くん、コメントをありがとうございます。
大人になると社会性が身についてきて、それがコミュニケーションをスムーズにさせる一方で、逆に本音の部分がわかりづらく人間関係が複雑になってしまうこともあります。小さい子供は本音をすぐに出すので、子供同士で喧嘩をしたり、仲直りをしたりの回転も速くて見ていて面白いです。私自身、幼稚園の時の大好きな先生の顔も名前もまだ憶えていて、小さいころ出会った親族以外の信頼できる大人の存在は大きいと感じています。
一人ひとりの顔、声、名前が違うように、人種や文化の違いを自然に受け止めることで、子供たちの生き方も、社会の在り方もポジティブに変わっていくような気がします。