故郷、熊本県の水俣に寄せる桜野園の思い
桜野園は、熊本県水俣市で代々お茶を作り続けています。桜野園の始まりは初代当主が昭和2年に茶園の開拓に着手し、翌3年に最初のお茶を植えたことにあります。現在の桜野園の代表、松本和也さんは4代目になります。
1990年から化学肥料、農薬などを使わない栽培方法を実践し、2005年からは肥料も使わない自然栽培のお茶作りにも取り組んでいます。桜野園が大切にしていることは、「赤ちゃんからお年寄りまで安心して飲めるお茶作り」だと言います。
そこには故郷の水俣に対する熱い想いがあるようです。水俣は「公害」という言葉と結びつけて語られることの多い土地です。そのため和也さんのお父さんの代は「水俣」の名前を表に出して販売することはなかったと聞きます。おそらく故郷の名前を出したくても出せない厳しい現実に向き合っていたからだと想像します。自分たちが大切に作り続けてきたお茶をどのように知ってもらうか。飲んでもらうか。我々のうかがい知れないご苦労があったに違いありません。
和也さんは、敢えて「水俣」を名乗ってお茶を販売しています。化学肥料や農薬を使わないお茶作りを重ね、安心はもとより、おいしさにもこだわってきました。
水俣というのは美しい名前です。付近の山々から湧き出す水が、文字通り集まる場所を指しています。水がこんこんと湧き、染み出し、小川を作り、それが重なり合い、大きな川となって海に注ぐ。山も川も大地も豊かな風土に包まれた場所であることを「水俣」という文字から想像できます。水俣の恵みがぎゅっと詰まり、水俣の人が丹精を込めて作り上げたお茶をぜひ、みなさんに味わってほしいと思います。
種から育てた「むかし茶」
種から育てたお茶と聞いてその味が想像できる人はそれほど多くないと思います。というのは、一般的に私たちが口にするお茶のほとんどは挿し木で増やして育てたお茶だからです。ですから、とくかく一度、味わってほしいのです。種から育てたお茶がどのような味がするのかを。
もしあなたが私の目の前にいて、むかし茶を差し出すことができれば、私は「とにかく飲んでみてください」とだけ言うでしょう。それほどむかし茶は持つ香りも味も、私たちが普段口にするお茶とは違うと思うからです。
心地よい苦味が嬉しい
お手元にむかし茶がと届いたら、まずお茶そのものを味わってほしいのです。そしてむかし茶が持つ個性が味わえたなら、次はあえて比較的甘みの強い羊羹などの餡子系のお茶菓子と合わせて飲んでみてください。
まず鼻にスーッと抜ける緑の香りは、甘い餡を口にした後でも感じられます。その後、追いかけるようにお茶の味わいが喉を抜けていきますが、甘みの後に来るむかし茶の個性的な渋味、それは本当にたまらない味わいです。むかし茶には餡の甘みに負けないだけの野趣あふれる苦味があります。人によっては洋菓子と合わせておいしく頂くこともできるでしょう。ぜひ、お好きなお茶菓子と食べ比べて楽しんでみてください。
桜野園の原点ともいうべきお茶
桜野園は初代当主が昭和2年に茶園の開拓に着手し、翌3年に最初のお茶を植えたことに始まります。むかし茶のパッケージのサブタイトルを見ると、「ひいじいちゃんが植えた」とあります。むかし茶は初代当主から育てられてきたお茶であることがわかります。モノクロ写真には「創設十週年」の文字が見えます。ということは、写真は戦前に写されたものなのでしょう。人々の後ろに見える茶畑は綺麗に刈り込まれていて美しく、丁寧な仕事ぶりが伺えます。
こうした桜野園の姿勢は現在の四代目当主、松本和也さんにも脈々と受け継がれています。無農薬、無化学肥料、在来種、自然栽培など桜野園のお茶の特徴を表す言葉はいくつもあげられますが、それを成し遂げるにはお茶に対する並々ならぬ気遣いやご苦労があるのだろうと思います。もちろん育てる喜びもあることでしょう。皆さんに、水俣の人と風土が育てたお茶をお届けします。