写真:須藤功(昭和40年代 三陸海岸) 「ものがたりをめぐる物語」後編より
私(小倉)と陸前高田とのご縁は、かれこれ30年以上前に遡ります。その間、東日本大震災が起き「陸前高田 壊滅」と報じられた際には、衝撃とともに全身の血が逆流するような感覚を覚えたことを忘れません。「被災地」と呼ばれるようになった陸前高田の皆さんとどのように向き合えばいいのかわからぬまま、おそるおそる高田で取材を始めました。心配をよそに、かつてお世話になった「景観とまちなみ研究会」の皆さんが作品を温かく受け容れて下さり、「陸前高田映画会実行委員会」を立ち上げて上映会が実現することとなりました。この機会に陸前高田市の内外から多くの方々がお越しくださり、映画をご覧いただければ幸いです。
陸前高田映画会に寄せて
及川裕敏【陸前高田映画会実行委員会 代表・建築家】
3.11以降、「陸前高田」の名は誰もが知るようになった。「被災地」というニュアンスを伴って。映画の舞台は、信州諏訪と陸前高田。どちらも「養蚕」の文化を土台に持つという意味で親しみを覚えた。愛宕山の変わりゆく姿に寄り添うまなざしからは、「風土との向き合い方」を問われた気がした。一方、古くから気仙川に架かる「板橋(流れ橋)」を集落の人々が架け替える姿や70年代の広田湾をめぐる動きに改めて触れて、「高田で上映会をしてみたい」と微かに気持ちが動いた。「この風土に生きてきた私たちの誇り」に響くものになり得たのは、映画の制作者が、震災前の高田を知り、親交を結んできたことと無縁ではないだろう。そして、遠野からほど近いこの気仙の地にも「ものがたり」が生きている。映画に集った人々と、気仙について、風土について、ものがたりについて、大いに語ってみたいと思っている。
諏訪の御渡りと陸前高田の橋
モンテ・カセム|国際教養大学 理事長・学長】
映画『ものがたりをめぐる物語』は深く私たちの心を動かす作品です。私たちの心の奥底にある、豊かさと変化に満ちた、生命あふれる自然の記憶が呼び起こされるのです。
風土は自然の要素がもっとも純粋なかたちで現れており、この映画は、風土を大切にする心が祖先の暮らしを形作ってきたことを映し出しています。諏訪湖に張る氷の亀裂の形から吉凶を占う御渡りはその象徴です。
陸前高田を流れる気仙川では、川に架かる簡素な橋が嵐や洪水のときに流されますが、嵐が収まれば人々は流れた材木を川下から回収して橋を架け直します。これは地域の人々が自然とともに生きる中で培った、立ち直る強さを示しています。映画ではこうした生き方と、明治維新以後、日本の近代化を形成してきた価値観とを対比させています。近代、土地は国土と称され、人間の所有物になりました。その分配は国家が決め、その価値は精神的なものではなく実用的なものになったのです。それが私たちをいかに脆い存在にしたかを、映画は示しています。
2011年3月11日の東日本大震災における復興は、「国土」が「風土」より優位に立ったとき起こりうる結果なのだと。大学院での学びを振り返ったとき、私が専攻した「地域開発」はまさしく国土中心であったのだと気づきました。ただもうひとつ思い出したことがあります。傷ついた熱帯生態系を修復するフィールドワークを私が学生たちとどのように始めたかです。調査活動を始める前に、まず学生たちに、世界でもっとも古くもっとも樹高の高いこの熱帯雨林の壮麗さの中に心身を沈め、森を五感で感じてもらうようにしました。これこそ風土中心の考え方であり、これに気づいたことで私は少し救われた思いがしました。
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開催日時:12月4日(日) 13:00(開場)〜18:00(閉演)
場所:陸前高田市コミュニティホール|シンガポールホール TEL:0192-54-2111
入場料:無料・全席自由席、定員300名 先着順(ご予約不要)
お問合せ(平日9時〜15時):TEL:044-982-7233(ささらプロダクション)、TEL:0192-55-4012(及川建築設計事務所/陸前高田市)
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※新型コロナウイルス感染症対策により入場者が制限されたり、中止する場合がございます。事前に関係各所のお知らせやウェブサイト等をご確認ください。