久しぶりに信州諏訪の八劔神社宮司、宮坂清さんを訪ねました。長らく時間がかかってしまった私たちの新作映画「ものがたりをめぐる物語」が完成したことを神前にご報告するためです。そういえば、この作品で一番最初に撮影したシーンは「御渡り」でした。映画の仕事始めに八劔神社の神前で祈祷し、撮影に望んだことを今でもよく覚えています。
今回も神様に映画完成の報告をさせていただいたあと、いつものように宮坂宮司と四方山話を交わし合いました。話はいつしか、諏訪大社の神紋である梶の葉に及びました。すると、宮坂宮司がおもむろに硯と筆を持ち出し梶の葉の面に筆を走らせ始めたのです。
あかつきの 静かに星乃 別れかな
子規
正岡子規が読んだ七夕の句だそうです。私たちが宮坂宮司を訪ねたのもちょうど七夕のころ。そうした機会を捉えて滑らかに子規の句をしたためる教養に驚かされますが、宮坂宮司の真意はそこにあらず。そうしたことをひけらかす方ではありません。
実は梶の葉には「墨がよく乗る」ことを教えてくださったのです。確かに葉の表面を撫でると細かな柔らかい毛が感じられ、なんとも気持ちがいい。これなら墨がうまく吸収されるだろうなと納得するような葉っぱです。それもそのはず、梶はクワ科コウゾ属。和紙に使われるコウゾの仲間と考えると合点がいきます。
しかし、こうも綺麗に墨が乗るとは、驚きです。
もりした かずこ
ヨーロッパ イギリス、ハートフォードシャー
2022/07/30
私は梶の木に関する知識がなく、色々な情報を検索していましたら、その一つに「古代から、神に捧げる神木として尊ばれ、七夕祭に「歌」を葉に直接ヘラなどで書きお供えしました」とありました。墨の乗りもそうですが、宮坂さんがまっすぐでない梶の葉の上に、これだけ美しい字を書かれることにも感動しました。